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続・わたくしの宝もの 8_ゲタの思い出・再び
最近、銀座がとても変わってきているそうね。新しい建物がたくさんできているのでしょう。
わたくしの若い頃とは大分景色が違ってきているかもしれないわね。
初めて銀座に行ったのは戦争が始まる前のこと。
銀座三越の入り口ではドアガールが出迎えてくれてびっくりしたわ。
食堂では、あまり知らないものを頼めないからビフテキを注文したの。
隅っこでレコードをひっくり返している真っ赤なドレスの女の人に見とれていると、
水が入っているお椀を目の前に出されてね。
よく笑い話になるでしょう? フィンガーボールのことよ。
わたくしはね、なんだかの本で読んでいたの。
ああ、これだな、これは飲んじゃいけないって。ちょろっと手を洗ってみたりして。
失敗談を期待したかもしれないけれど、そうそう恥はかきませんよ。
田舎娘を甘く見ちゃあいけません。
わたくしは赤い鼻緒のゲタで銀座に通っていたのだけれど、
ある時、野球の早慶戦があった日だったわね、ゲタを履いた学生さんが大勢繰り出していました。
そのゲタをよくよく見ると、指の痕がくっきりとついているの。
親指もかかとも、どうしてあんなに減っているのかと思うくらいにね。
今思うと、代々受け継いできたものだと分かるけれど、
当時のわたくしはなんでも珍しくて、不思議で不思議でなりませんでした。
ほかにも、銀座のヤマハでオルガンを買った話などもあるけれど、また次の機会に。
銀座の思い出はそんなところです。
《ビフテキとゲタとオルガン 憧れの街》

最近のだっこちゃんは耳が長いのね
H28.07.11号より