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続・わたくしの宝もの 11_洗い流して
まもなく8月15日だわね。
毎年、この日が巡ってくると胸が締め付けられる思いに駆られます。
中国にいたわたくしは、一刻も早く引き揚げなくてはなりません。
幼い娘を連れて、上海から鹿児島に船で渡ることになりました。
負けて帰るんですから、それは悲惨なものでした。
途中、軍人さんのお葬式を2回、行いました。
航海は大嵐で、当時のわたくしは泳げませんから、
もしも船が沈んだら娘を頼みますと主人にお願いをして、覚悟を決めていました。
桜島が見えたときには、どこからともなく歓声があがって、気が付くと涙があふれ出ていました。
鹿児島に上陸してからは、主人の実家の奈良を目指しました。まずは汽車で大阪まで。
人がいっぱいで窓が閉まらないものだから、皆の顔はススでまっ黒け。必死だったもの。気にも留めなかったわね。
奈良ではおじいさんをはじめ、皆さんが暖かく迎えてくれました。
本当に悲惨な状況だったけれど、帰る家があって本当に良かった。
空襲で家の無い人もたくさんいらしたから。実家がなかったら路頭に迷うところでした。
初めて家族の皆さんにお会いしたのだけれど、道中の汽車のススと日焼けのために、顔は真っ黒。
挨拶もそこそこに、お風呂に入ってさっぱり垢を落として顔を見せたら「あらあ! 色白かったんや」ってびっくりされました。
久しぶりに笑顔がこぼれたひと時でした。
《嵐超え 見上げた先に桜島》

平和な世の中になりました
H28.08.08・15号より